昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が幅広く使用され、企業にも普及しています。DX推進のための補助金制度や助成金制度も設けられています。

IT企業は自社のITツールを販売する際に、「新しく開発したDXツールを導入しませんか?」DXを活用して業務効率化をしましょう!」といったPRを行っています。同様に、公的な支援機関も「DX活用セミナー」を企画し、専門家はプロフィールに「DX化を支援します」と記載しています。

しかし、これらはすべて誤りです。

サービスを提供するIT企業や相談窓口である公的支援機関・専門家でも、DXに関する誤解が広まっています。

DXという言葉の意味が適切に理解されておらず、DXの本質が把握されていないため、単なるITツールの導入に終始し、「DXは失敗だった」といった結果になってしまうことがあります。

この記事では、読者が同じ失敗を犯さないように、DXの本質と正しい進め方について知っていただきたいと考え、執筆いたしました。

まず、「DXとは何か?」、「どこが誤解されているのか?」を正しく理解しましょう。そして、失敗を避けるためのDXの進め方に関する要点をご紹介します。

DXの意味と3つのステージ

最初に「DXとは何か?」について確認してみましょう。

DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。DTではなく、DXです。英語圏では「Trans」に対して、未来や革新を象徴する「X」を用いることで、変化を表す慣習があります。例えば、旧Twitterでも同様の「X」が使われていました。

DXにはデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの3つのステージがあります。

簡単に言えば、デジタイゼーションはデータのデジタル化、デジタライゼーションはデジタル技術を活用して業務を効率化し、デジタルトランスフォーメーションはデータやデジタル技術を使って顧客目線で新たな価値を創出していくこと、またそのためにビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むことを指します。

デジタイゼーション(Digitization)

データのデジタル化

デジタイゼーションは、アナログデータをデジタル形式に変換するプロセスです。書類や写真を電子的な形式に変換したり、アナログの情報をデジタルなデータベースに保存することが含まれます。これにより、情報の取り扱いが容易になり、検索や共有がスムーズに行えるようになります。しかし、これはデータの変換に過ぎず、新しい価値の創造には直接的には寄与しません。

デジタライゼーション(Digitalization)

デジタルデータを活用した業務効率化

デジタライゼーションは、デジタイゼーションをベースにして、デジタル技術を活用してビジネスプロセスを改善し、効率を向上させるプロセスです。業務やプロセスをデジタル技術で再設計し、新しいデジタルな機能や手法を導入することで、業務の効率性や柔軟性を向上させます。例えば、これまで手作業で行っていた業務についてITツールを導入して業務効率化を図る、などがイメージしやすいでしょう。デジタライゼーションは、既存の業務をより効果的に行うための変革を指し、付加価値を生み出します。

デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)

データやデジタル技術を使って顧客目線で新たな価値を創出していくこと

デジタルトランスフォーメーションは、企業全体におけるデジタライゼーションの進化形であり、デジタル技術を活用して業務効率化を図るだけでなく、組織文化やビジネスモデルの変革にまで拡大する概念です。これは、従来のビジネスプロセスやモデルを根本的に変え、新たな価値を生み出すことを意味します。

デジタルトランスフォーメーションは、デジタル技術を事業戦略の一部として捉え、新しい市場や顧客体験の創出、ビジネスモデルの革新を追求します。この概念は技術だけでなく、組織文化やリーダーシップの変革も含まれます。

このような説明だけでは、デジタルトランスフォーメーションは分かりにくいかもしれませんね。

もう少し簡単に言えば、データやデジタル技術を使って顧客目線で新たな価値を創出していくこと、またそのために、ビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むことです。ただのIT化ではありません。デジタル技術を駆使して新たな付加価値を生み出すこと、そしてそれに伴う組織文化の変革も含まれています。

これまではデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーションの順番に実践していくと考えられていましたが、最初からデジタルトランスフォーメーションを成し遂げた企業もあることがデータから明らかになりました。

「DX活用」「DX導入」「DX化」が誤りの理由

それでは、なぜ、「DX活用」、「DX導入」、「DX化」が適切でないのかを説明しましょう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)は、データやデジタル技術を使って顧客目線で新たな価値を創出していくこと、またそのために、ビジネスモデルや企業文化等の変革に取り組むことです。

このように、DXは「概念」、「プロセス」なので、「活用」や「導入」といったアクションで表現することは適切ではありません。

そういう意味であれば、「DX化」は正しいように思えますが、実際には誤りです。なぜなら、DXはデジタルトランスフォーメーションという変化を表す言葉の略語で、既に「変革」を意味しています。したがって、「DX化」は冗長であり、不自然です。

DXを単なるIT化だと勘違いする人々が、「IT活用」、「IT導入」と同じように使っている可能性があります。正しくは、「DX推進」と表現されることが一般的です。

さらに、一部のITベンダーは自社のツール・システムを広める際に、「DX活用」や「DX導入」といった表現を用いますが、これには警戒が必要です。これらの表現に引き寄せられると、本質的なDXを逃してしまうかもしれません。真のDXを達成するためには、しっかりとした経営戦略のもとで、ITツールやデジタル技術を導入することが重要です。

最後に、DX推進は単なる言葉遊びではなく、組織において新たな価値を生み出すための重要な取り組みです。しっかりと戦略を練り、組織全体を巻き込んで実践することが成功の鍵となります。

よくある間違いは、「AIを導入して何かできないか?」などのように、手段から検討してしまうケースです。目的(経営戦略)をはっきりさせてから取り組むことをおすすめします。