前回の記事で「【夫婦で会社設立】株式会社設立までの手順」を紹介しました。
前回記事の流れに沿って、それぞれのステップの詳細をお伝えします。本コーナーは「夫婦で会社設立・夫婦で会社経営」ですので、夫婦で株式会社を設立した実経験(役員と株主が同じ)と、経営コンサルタントの視点から、重要なポイントに絞って解説します。
会社名の検討(同一・類似商号の調査)
会社は一度設立すると、特段の事情がない限り、社名を変更しないほうがよいです(できないわけではありません)。社名を決めるときのポイントは、「思いを込めて、ルールを守り、分かりやすく」です。
ポイント1 思いを込める
社長の理念・思いが反映されているか?
会社設立の際には、「こういう会社にしたい」、「こういうことをやりたい」、「こんな形で社会に貢献したい」など、色々な思いを込めると思います。社名にそのような理念・思いを詰め込むことで、企業活動開始後にくじけそうなときに支えてもらったり、ステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションが弾んだりします。
ポイント2 ルールを確認する
社名は自由につけられるわけではなく、ルールがあります。主なネーミングルールを2つ紹介します。チェックしてみましょう。
ルール1 会社形態の種類を、社名の前・後どちらにつけるか?
選択した会社形態ごとに、商号中に会社形態の種類を表示しなければなりません。例えば、株式会社の場合、商号中に株式会社という文字を使わなければならず、他の会社形態の文字は使うことはできません。(株式会社○○、または、○○株式会社)
社名の前に株式会社をつけることを「まえかぶ」と言います。
商号 = 株式会社 + 社名 (株式会社○○)
社名の後ろに株式会社をつけることを「あとかぶ」と言います。
商号 = 社名 + 株式会社 (○○株式会社)
ルール2 使用禁止の単語・文字・記号を使っていないか?
詳しくは割愛しますが、社名にすべての単語や文字、記号が使えるわけではありません。考えている社名が使って問題ないか?について、確認してください。
ポイント3 分かりやすさを考える
相手に社名を覚えてもらうためには、分かりやすさが重要です。次の項目を確認してみましょう。
社名は長すぎないか?
Webでの検索結果、印刷物での表示、口頭で話すときなど、短く分かりやすいほうがベターです。
社名から事業内容や商品・サービスを想像できるか?
社名を見て、何をやっている会社なのか?を想像してもらえるといいですね。
紙に書いたり、発声したりして確認を!
頭のなかだけで考えるよりも、「株式会社○○」と実際に書いてみたり、口に出してみたりすると、バランスや話しやすさ・聞きやすさについて、気づくことがあるかもしれません。
同一・類似商号の状況は?
似たような名前、同じ名前を他社がすでに利用している可能性があります。
例えば、インターネットで社名を検索してみてください。検索結果に表示されませんでしたか?もし他社がいる場合は、Webの世界ではライバルになります。情報発信をしても埋もれてしまう可能性があるのです。また、他社に知的財産権の商標権を取得されている場合は、権利侵害となる可能性もあります。余裕のある人は、ホームページを保有するときに必要となるドメインについても調査してみましょう。
個人事業主から法人成り
私は個人事業からの法人成りでした。当時、個人事業を開始するときに上記の社名の検討事項のようなフェーズを実施し、屋号として「トモデザイン」を採用しました。そのため、法人でも同じトモデザインを第一選択として進めました。これまでの取引先にも分かりやすいと思います。
「まえかぶ」と「あとかぶ」
「まえかぶ」にするか「あとかぶ」にするかについて考えました。結果は株式会社トモデザイン、まえかぶにしました。理由は、発声時は最初の発生が聞こえにくく、先に「株式会社」と話したほうが社名が伝わりやすいと考えたためです。実際に口に出して発生すると、トモデザイン株式会社よりも株式会社トモデザインのほうがしっくりきました。
会社形態の検討と費用確認
会社形態は、株式会社・合同会社・合資会社・合名会社の4つに分類されます。(有限会社は2006年以降、会社法の改正により新規設立ができなくなりました。)
さらに法人形態ということになると、医療法人や一般社団法人、NPO法人、社会保険労務士法人、税理士法人など、さらに幅が広がります。
ここでは、役員と株主が同じ株式会社と、株式会社と合同会社の設立費用を紹介します。
役員と株主が同じ株式会社
株式会社の基本原則として「所有と経営の分離」というのを聞いたことがあるかもしれません。ここでいう会社の所有者は株主のことで、経営者は役員のことです。
しかしながら、中小企業の実態としては「役員=株主」というケースが少なくありません。つまり、「所有と経営が一致」しているのです。
弊社もそうです。外部から出資を募らずに、自己資金をもって資本金として払込み、株式会社を設立しました。このような形式の株式会社は、合同会社に近いかもしれません。
株式会社 (役員≠株主) | 株式会社 (役員=株主) | 合同会社 | |
議決権 | 保有株数に応じる (役員は議決権なし) | 役員=株主は保有株数に応じる (全株保有で自由に決定できる) | 一人一議決権 (定款で変更可) |
役員の任期※ | 最長10年 | 最長10年 | 定めなし |
※ 役員の任期
通常は取締役2年(監査役は4年)ですが、非公開会社の場合は最長10年まで伸長することができます。任期経過後に引き続き同じ取締役とすることもできますが、役員変更登記費用としての登録免許税(通常1万円、資本金1億円超の会社の場合は3万円)がかかります。
非公開会社とは、その会社が発行する株式を譲渡・取得する場合にはその会社の承認が必要となる譲渡制限事項の定めが定款に設定されている会社のことをいいます。
会社設立にかかる費用
株式会社 | 合同会社 | |
登録免許税※1 | 150,000円~ | 60,000円~ |
定款収入印紙代※2 | 40,000円 | 40,000円 |
公証役場の認証手数料※3 | 30,000円 ~ 50,000円 | 不要 |
合計 | 220,000円~ | 100,000円~ |
上記は必ず発生する費用です。専門家(司法書士、行政書士)に登記手続きを依頼した場合は、+50,000円~100,000円の手数料がかかります。
設立手続きに必須となるのが、法人印です。代表印、会社銀行印、会社角印の3点セットがよく言われますが、使い分けしないのであれば代表印だけでもOKです。
私は紛失・破損などのリスクを考慮し、3点セット+ゴム印+電子印を購入しました。また、会社設立後すぐに営業活動を実施したかったので、会社設立前にレンタルサーバー契約・ドメイン取得を行いホームページを制作しました。その他、ホームページアドレスとメールアドレスを記載した名刺を作成して会社設立挨拶状に同封し、取引先や関係者に郵送しました。
※1 登録免許税
特定創業支援等事業を修了すれば、半額に減免(希望される方は、市区町村へ問い合わせてください)
※2 定款収入印紙代
電子定款の場合、不要
※3 公証役場の認証手数料
- 資本金の額等が100万円未満の場合、30,000円
- 資本金の額等が100万円以上300万円未満の場合、40,000円
- その他の場合、50,000円
登記の住所検討
会社を設立するためには、登記の住所を決めなければなりません。
すでに賃貸している物件で登記したい場合は、登記可能である契約になっているかを契約書や不動産オーナーに確認してください。商業登記不可の契約になっている可能性があります。
実際にあった話ですが、市場のようなオープンスペースで登記をしたいという方がおられました。いくら不動産オーナーが登記OKと言っても、会社住所には年金事務所や税務署などから健康保険証や納税通知書など重要な郵便物が届きますので、注意して検討しましょう。
法人登記することにより、インターネット上に住所が公開されます。
私の自宅は賃貸物件ですが、不動産オーナーの許可があれば、自宅を登記住所とすることもできました。しかし、将来的に引っ越す可能性もあること(会社所在地が変わると登記事項の変更手続きが必要となる)、そしてインターネット上に住所が公開されることによるリスク(特に子ども)を考慮し、自宅住所での登記は行いませんでした。
法人設立のメリット・デメリット確認
インターネットや書籍を調べれば、法人設立のメリット・デメリットという情報は見つけられると思いますので、ここでは教科書的な話は割愛します。その代わりに、私の法人設立(法人成り)の決め手と不安要素について、生々しい話を紹介します。
私が法人設立(法人成り)を選んだ決め手
国民健康保険料が高い
個人事業主のときは国民健康保険に加入していましたが、月々の支払額が大きく負担となっていました。国民年金は一定額ですが、国民健康保険は一定ではありません。将来への蓄えという点を考えると、健康保険よりも年金の支払額が大きいほうがいいと思いました。
そのため、厚生年金・健康保険に加入することを決めました。厚生年金・健康保険は事業者が半額を負担することになりますが、法定福利費として損金に算入することができます。そして、夫婦会社ですので、私だけでなく妻も厚生年金・健康保険に加入できます。
よく紹介されていますが、個人事業と法人を比較した法人のデメリットの一つに「社会保険料の負担が大きくなる」とあります。しかしながら、私としては支出額は増えるかもしれませんが、半額損金算入と厚生年金による将来への蓄えのほうがメリットが大きいと考えました。
会社設立の相談に対して実経験を踏まえて助言したい
弊社は創業支援を行っていますが、会社設立についての相談があります。
教科書的な話はインターネットの情報を検索したり、書籍を読んだりすれば、ある程度収集できると思います。専門家としてそのような知識を蓄積しておられる方もいらっしゃいます。
しかしながら、自分で会社を設立することを経験している・していないでは、助言内容も変わってくると考えました。実際に教科書にはないことや苦労したことなどを説明できるようになりました。
取引先に源泉徴収を求めることで負担を強いるケースがある
個人事業主の場合、取引先に源泉徴収を求めなければならないケースがありました。法人では、源泉徴収してもらう必要はないため、そのような手間暇がかからなくなると考えました。
節税したい
例えば、次のようなことを考えました。
- 出張が多いため、日当(非課税)を支給したい
- 法人名義で社宅を借り上げたい
私が感じた法人設立(法人成り)の不安要素・デメリット
安定的な役員報酬の支給ができるか?
役員報酬には、定期同額給与の原則があります。事業年度を通じて毎月の支給額が同額でなければ、損金算入できません。つまり、1年間は同じ額の役員報酬を支払う必要があります。安定して役員報酬を支給することができるか?という点が最も不安な要素でした。
視点を変え、1年後に役員報酬は増減できるという点に注目し、下記2点で対応することにしました。
- 当期の利益に応じて、翌期の役員報酬を調整する。
- 融資を受けることで、手元資金を厚くしておく。
必要経費が増えるのではないか?
私が法人成りをして増えた経費は、地代家賃、税理士報酬、役員報酬、法定福利費などです。このなかで調整できるのは役員報酬とそれに紐づく法定福利費です。
事業基盤は個人事業から引き継いだので、売上予測が立てやすい状況でした。まずは売上予測と役員報酬を除く支出予測から年間の収支計画を立てました。そして、最終的には赤字とならないように留意しながら役員報酬の額を調整・決定しました。
個人事業は廃業するか?
個人事業から法人成りをしましたが、個人事業は廃業するか?について検討しました。
しかし、税務上の個人事業と法人事業の棲み分けが難しく、判断できませんでした。そのため事業内容で分離することにしました。事業内容が重複しているとなんとなく気持ち悪い(ルール・規則が後から決まる世の中なのでグレーゾーンな気がしてしまう)ので、完全に別事業としたかったという考えがあります。
これまでの事業基盤は法人に引き継いだので、サラリーマンも複業時代ですし、定款にない事業は個人でやっていきたいと考えています。
ふるさと納税の限度額が下がってしまう
個人事業では、事業所得によって課税される金額が決まり、そこからふるさと納税の限度額が決定されます。一方、法人にすると役員報酬をもらうようになります。個人事業の売上≒法人の売上である場合、非常にシンプルに考えると「個人事業の利益≒法人の利益+個人の収入(=役員報酬/月×12ヶ月)」という計算になります。つまり、個人の収入は減少する(役員報酬の支給だけが収入となる)ため、ふるさと納税の限度額が下がってしまうということになります。
専門家に依頼するか検討
会社設立手続きは、時間・労力がかかります。本業に力を入れたい方は、専門家に依頼する選択肢もあります。その場合は費用がかかりますが、本業に集中できるという点が最大のメリットでしょう。
会社設立に関する代表的な専門家
- 登記申請の手続き・・・司法書士(※行政書士は書類作成のみ)
- 人材雇用、人事労務の相談・手続き・・・社会保険労務士
- 財務会計・税務の相談・手続き・・・税理士、公認会計士
- 経営全般・創業計画の相談・・・中小企業診断士
上記に記載の通り、私は「会社設立の相談に対して実経験を踏まえて助言したい」という考えがありましたので、基本的には専門家に依頼せずに自分で会社を設立しました。一連の会社設立の手続き・届出に関して経験するいい機会だと考えました。
そんななかでも、一部税理士の先生に会社設立のサポートをお願いしました。個人事業と法人で財務・会計の考えが異なるケースや、税務上問題にならないかの判断が自分では難しいケースなど、税理士の先生に相談したいことがあったためです。
資本金の準備
「1円で株式会社を設立することができる」ということを聞いたことありませんか?
よくある勘違いですが、実質1円だけで株式会社を設立することはできません。資本金は1円でも株式会社を設立することはできますが、株式会社設立のためには定款認証や登録免許税などの費用がかかります。
また、資本金が少ない場合、金融機関や外部関係者からの評価が低くなる可能性もあります。資本金はある程度準備しておくようにしてください。
設立準備に関する各種領収書の保管
会社設立・事業開始準備のために発生した費用は、開業後に「創立費」、「開業費」として会計処理をすることができます。
会社設立前の時点では、「創立費、開業費というものがある」という認識をもっていただき、準備のための領収書を保管しておくだけで十分です。逆にいうと、領収書がなければ使えませんので、ご注意ください。詳しくは会社設立後に顧問税理士の先生に相談してください。
創立費
会社を設立するまでにかかった費用です。
例えば、登記するために必要な登録免許税、定款作成や認証手数料、専門家への支払報酬などです。
開業費
会社を設立してから事業を開始するまでにかかった費用です。
例えば、開業のためのセミナー費用、立地や物件の調査費用、挨拶状などの広告宣伝費、開業相談の打ち合わせ費用、パソコン購入費用などが開業費として認められます。しかしながら、すべてが開業費として認められるわけではありません。10万円以上するもの(固定資産)や仕入れ代金などは対象外です。
弊社は、2022年1月5日付で会社を設立し、1月6日から事業開始しました。会社設立~事業開始までの費用が「開業費」です。弊社の場合は、1月5日~6日までの費用が発生しなかったため、「開業費」はなく「創立費」だけになりました。
集めた領収書をもとに一覧表にまとめ、税理士の先生に創立費として認められるかどうかをチェックをしてもらいました。