「再製」とは読んで字のごとく、「再び製作する」ことを意味します。

歯科治療において再製が起きるということは、患者さん・歯科診療所・歯科技工所それぞれに負担が発生します。

今回はこれから歯科技工士として働く方、歯科技工士になりたての方向けになぜ再製が起こってしまうのかについて考察します。

そして、私が考える歯科医療の実態、理想についても少し述べています。

※注釈はなるべく追記していますが、当該記事は専門用語が出てきます。

補綴物製作時の留意点

解剖学的な基本形態、色調バランス、周囲の歯との調和に配慮しながら、咀嚼(噛む)・嚥下(飲み込む)・発音(音を出す)が機能するように製作する必要があります。

スピルウェイ(食べ物の流れ)、カントゥア(歯の豊隆)、生物学的幅径(組織上の侵入不可領域)、対合歯(噛み合う歯)との接触、コンタクトポイント(隣の歯との接触点)とその接触度合い、材料の性質など補綴物製作時には様々な点に留意しなければなりません。

このように、健全な歯科医療が実施されるためには専門学的な知識・技術が必要となるため、歯科技工士は国家資格として位置づけられているのです。

再製が起こる原因

原因はいくつか考えられますが、次の3つについて取り上げます。

  1. 模型と補綴物(口の中に入れる人工の歯)の適合が悪い
  2. 模型が口の中の状態を再現していない
  3. 情報を正確に共有できていない

模型と補綴物の適合が悪い

補綴物は模型を基に歯科技工士が製作します。模型に補綴物を装着した時に合わない(適合が悪い)という状態は、口の中に装着した時も合わないことを意味します。技工作業過程でテクニカルエラー(金属の収縮や人為的ミスなど)が発生した場合に起こります。この場合は製作上のミスによるものですので、原因としては技工士の技術不足、製作過程上の問題、機材・材料のミスマッチなどが考えられます。

削った歯の面は外部の刺激を受けやすい状況にあり、そのままでは痛みを感じてしまい、細菌により二次的なむし歯が引き起こされるリスクがあります。そのため、必ず完全に補綴物で覆う必要があります。 言い換えると、隙間が発生することは生体に害を与えてしまうことになります。とはいえ、きつすぎると患者は痛みを感じ、生体にとって悪影響になります。バランスのよいものを作ることはとても難しく労力もかかります。細心の注意を払って仕上がりをチェックしなければならず、歯科技工士には熟練の技術が求められます。

模型が口の中の状態を再現していない

前項で分かるように、歯科技工士は模型に忠実に補綴物を製作します。しかし模型上で適合がよい補綴物を口の中にいれたときに適合がよいとは限りません。

模型≠口の中の状態

このケースがあるためです。大きく分けると次の2つの要因が考えられます。

  1. 模型が口の中を再現できていない
  2. 口の中の状態が変わってしまった

模型が口の中を再現できていない

歯科医院で歯の模型を作るときは「印象材」というものを口の中に入れて型を採ります。(歯科治療を受けたときを思い返すとぶよぶよした粘土のようなものを口の中に入れた記憶があると思います。)採得した型に「石膏」を流し込み、固まるのを待ちます。

印象材、石膏にはいくつか種類があります。適切な材料を用いることで、模型の精度は上がります。

材料以外にも注意する点があります。型採りのときには気泡(空気の泡)が入らないようにし、変形しないように完全に固まってから方向・速度を考えて口の中から型を取り除き、型採り後はすぐに混水比(水と粉の割合)を遵守した石膏を流さなければなりません。

このように、印象材の特徴を把握し適切に選択・利用すること、型採りを正確に実施することで模型による再現精度を高める必要があります。(例えば、アルジネート印象の保管は相対湿度100%、印象採得後すぐに石膏を流し込むなど)

これらは歯科医院側で実施しています。

口の中の状態が変わってしまった

治療になかなか来ることができない患者さんの場合、口の中の状況が変わってしまう可能性があります。「仮歯が入っているから大丈夫」と誤解している患者さんも多くいます。

また、治療期間中に何らかの原因で噛み合わせのバランスが変わってしまい、当初想定していたケースと変わってしまう場合もあります。

歯科医院と患者さんのコミュニケーションにより、治療の中断のリスクや治療中の注意事項をしっかり伝え、患者さんのモチベーションを保つ必要があります。

情報を正確に共有できていない

歯科医院は歯科技工指示書を起票し、各歯科技工所へ製作依頼をするということが法律で定められています。

歯科技工士法第18条

「歯科医師又は歯科技工士は、厚生労働省令で定める事項を記載した歯科医師の指示書によらなければ、業として歯科技工を行ってはならない。」

歯科技工士法施行規則第12条

歯科技工指示書指示書に記載すべき事項では、「①患者の氏名、②設計、③作成の方法、④使用材料、⑤発行の年月日、⑥発行した歯科医師の氏名及び当該歯科医師の勤務する病院又は診療所の所在地、⑦当該指示書による歯科技工が行われる場所が歯科技工所であるときは、その名称及び所在地」と定められています。

これらを明確に指示する書類が指示書と考えられます。

②設計についてどこまで伝達するかがポイントだと考えられます。患者さんの慣習習癖により、どのようなことに注意して補綴物を製作するかを考える必要があるためです。

左右どちらでよく噛むかなど模型上から分かることもありますが、硬いものを好むなど分からないこともあります。

守秘義務との兼ね合いもありますが、守秘義務の例外として他の医療機関などの第三者に対してカルテ開示をすることが認められるケースもあります。

最適な補綴物を製作するうえで、歯科医師が適切な指示をすることが必要不可欠となります。

その他 色調

色調情報については情報共有にさらに注意が必要です。照明具合によって色の見え方が変わりますし、治療中に患者さんの歯の色は変化していきます。昨今ではデジカメにより写真を撮影して情報を共有することもあります。

少し前まではクリスタルアイというカメラおよび専用ソフトがありました(残念ですが現在は生産されていません)。これは光を遮断し色の情報をデータとして数値で記録できるもので、数値データをもとに色を再現・調整するというものがありました。次世代機器が開発されれば、歯科医院と歯科技工所で色の情報を正確に共有することができるようになると思います。

まとめ

今回は再製問題についてご紹介しました。具体的にどうすればよいのか?という点までは踏み込んで記載していませんが、全体的なポイントを絞って記載しています。

最適な治療とは何か?を考えると、患者さんの不安・悩みを歯科医師が専門的な知識・技術をもって長期的に解消することであると思います。患者さんの希望でも医療的に見るとリスクが高いこともあり、全てを実現することが必ずしも最適な治療とは限りません。その場合は患者さんにしっかりと説明し納得してもらう必要があります。

また歯科医療はチーム医療であり、歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・歯科助手・受付の連携が必須です。

そのような歯科医療のなかで、歯科技工所・業者に外注するという考え方でなく、パートナーに頼むという考え方で、歯科医院と歯科技工所が協力してよりよい歯科治療を目指していくことが理想だと思います。しかしながら、歯科技工所は下請け企業体質があり上下関係が発生しているのも事実です。

歯科技工士の仕事はとても難しく、奥が深い世界です。技術力を磨き続けることで新しい世界も開けてきます。年々歯科技工士の数は減少しています。金属価格の高騰、歯科医院からの値下げ要請により、多くの歯科技工士が離職しています。薄利多売状態で忙しい日々を送っている現役の歯科技工士の方も多くいます。

まずは歯科診療報酬の見直しが実施されることを期待しています。しかしながら、歯科診療報酬が改定されても歯科技工所側の負担が軽くなるとは限りません。保険診療の歯科技工では歯科医院側から少しでも安くしてほしいという根強い考えがあるためです。それゆえ、歯科技工士のなかには「安くするから受注させてほしい」という価格の下げ合いがあるケースも少なからずあり、仕方のないことだとしてもその行為が全体的に薄利多売状況を作ってしまっています。

私は歯科診療報酬の改定だけでなく、歯科医院と歯科技工所の関係性の再構築が必要だと考えています。歯科技工士が歯科医院側ともっと関わりを持つことで信頼を獲得し、歯科医院側も歯科技工所とのコミュニケーション機会を受け入れる姿勢を作ることで、チーム医療として取り組めるようになれば価格だけにとらわれることもなくなるのではないでしょうか。

これからの歯科医療環境が改善されることを切に願っています。